2009年11月17日 00:27
君はその日、とうとうわたしたちの前に姿を現すことは無かった。
市子が掃除の時間、「あいつかっこよくない?」そう突然肩を叩いてきたので、「あいつ?」と反復した。市子は眉間にしわを少し寄せてから、「神様よ」と言った。
その時、わたしは君が「神様」たるあだ名を命名されていたことを、初めて知った。
「そうかな。気味悪くない?」本心から言った。「それに、気障なところがカンに来る」これも本心。
「ん〜、でも、なんかかっこいい」
「さっき呼び出し喰らってたじゃない」
「あれでしょ? 岡部の腕をへし折った件でしょ?」
「そうそう」適当な相槌。
このあと知るのだが、岡部は腕だけでは無く、様々な箇所をボロボロにされていた。
「でも、岡部も結構暴れてたしねえ。いい薬だと思うわ」市子はさも他人事かのように――実際他人事なのだが――、そう味気なく言った。
わたしもそれには同意見だった。しかしこれは薬どころではなくなり、岡部先輩は全ての威厳が君に搾取され、その影響で、二度と学校に姿を見せることは無かった。
「市子はアイツが転校してきたとき、顔はがっかりって言ってたよね」
「ああ? 男は顔じゃない、顔じゃない。いや、神様は今や、漢だよ」
「何それ」
その日、ソフトボール部からの帰宅途中、君と出くわした。となりにいた同じソフトボール部の、淡輪が「あ、神様」と言うので、わたしも気付いた、というわけだ。
「ねえ、大丈夫だったの?」わたしは興味本位で、君にそう尋ねる。
「何が? 僕に負は全く無いわけだし」君は呆れたように言う。
「嘘、ついてるね」
「あ、ばれたか」
「どうせ、論破するのも」
「そう。論破するのも、僕の特技」君は顔を柔らかくした。「全部、特技だから。邪論さえ、僕の前では正論。じゃあね」
「え? あんたの家って、あっちの方向?」わたしは校舎の方角を指差す。
すると君は首を大げさに振って、その隣の教会を指差した。「シリスト教の信者なんだよ、僕」
意外な君の習慣(?)にわたしは少し感嘆しながらも、夕日に向かって走っていくようにも錯覚できる君の後姿に、何故だかしばらく見惚れていた。
淡輪がわたしの体操服の裾を引っ張る。「茶髪、あんた凄いね。あの神様とあそこまで気軽に話せるとは。御見それした」
「そんなにプレッシャー感じるもんじゃないでしょ、それにあいつよりかっこいい奴なんか、ゴマンといるでしょう」
淡輪は両手を振りまくって、それを否定した。その頃のわたしには、君の「あの秘密」を知らなかったけれども、それでも少しの人間としての興味はあったため、淡輪の言うことも多少は分かる気がした。
河川敷を歩いていると、川にサッカーボールを投げ捨てている綿貫を見た。綿貫の得意なサッカーボール……。そして綿貫と目が合った。彼は下唇を強く噛んでいたのか、血が滲んでいた。彼なりに葛藤しているのだろう。
君は本当に、罪作りな奴だ。わたしはつくづく、そう思う。
その日の晩、君はわたしに電話をかけてくる。
市子が掃除の時間、「あいつかっこよくない?」そう突然肩を叩いてきたので、「あいつ?」と反復した。市子は眉間にしわを少し寄せてから、「神様よ」と言った。
その時、わたしは君が「神様」たるあだ名を命名されていたことを、初めて知った。
「そうかな。気味悪くない?」本心から言った。「それに、気障なところがカンに来る」これも本心。
「ん〜、でも、なんかかっこいい」
「さっき呼び出し喰らってたじゃない」
「あれでしょ? 岡部の腕をへし折った件でしょ?」
「そうそう」適当な相槌。
このあと知るのだが、岡部は腕だけでは無く、様々な箇所をボロボロにされていた。
「でも、岡部も結構暴れてたしねえ。いい薬だと思うわ」市子はさも他人事かのように――実際他人事なのだが――、そう味気なく言った。
わたしもそれには同意見だった。しかしこれは薬どころではなくなり、岡部先輩は全ての威厳が君に搾取され、その影響で、二度と学校に姿を見せることは無かった。
「市子はアイツが転校してきたとき、顔はがっかりって言ってたよね」
「ああ? 男は顔じゃない、顔じゃない。いや、神様は今や、漢だよ」
「何それ」
その日、ソフトボール部からの帰宅途中、君と出くわした。となりにいた同じソフトボール部の、淡輪が「あ、神様」と言うので、わたしも気付いた、というわけだ。
「ねえ、大丈夫だったの?」わたしは興味本位で、君にそう尋ねる。
「何が? 僕に負は全く無いわけだし」君は呆れたように言う。
「嘘、ついてるね」
「あ、ばれたか」
「どうせ、論破するのも」
「そう。論破するのも、僕の特技」君は顔を柔らかくした。「全部、特技だから。邪論さえ、僕の前では正論。じゃあね」
「え? あんたの家って、あっちの方向?」わたしは校舎の方角を指差す。
すると君は首を大げさに振って、その隣の教会を指差した。「シリスト教の信者なんだよ、僕」
意外な君の習慣(?)にわたしは少し感嘆しながらも、夕日に向かって走っていくようにも錯覚できる君の後姿に、何故だかしばらく見惚れていた。
淡輪がわたしの体操服の裾を引っ張る。「茶髪、あんた凄いね。あの神様とあそこまで気軽に話せるとは。御見それした」
「そんなにプレッシャー感じるもんじゃないでしょ、それにあいつよりかっこいい奴なんか、ゴマンといるでしょう」
淡輪は両手を振りまくって、それを否定した。その頃のわたしには、君の「あの秘密」を知らなかったけれども、それでも少しの人間としての興味はあったため、淡輪の言うことも多少は分かる気がした。
河川敷を歩いていると、川にサッカーボールを投げ捨てている綿貫を見た。綿貫の得意なサッカーボール……。そして綿貫と目が合った。彼は下唇を強く噛んでいたのか、血が滲んでいた。彼なりに葛藤しているのだろう。
君は本当に、罪作りな奴だ。わたしはつくづく、そう思う。
その日の晩、君はわたしに電話をかけてくる。







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